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[1]Liイオン電池: ケイ素系負極材料の創製 /  [2]電極*電解質界面の最適化 /  [3]ガスデポジション法による電極作製と反応機構解析 /  [4]Naイオン電池: 合金系負極材料の創製 /  [5]上純物元素をドープしたルチル型TiO2の研究 /  [6]光で充電できる電気化学デバイスの開発


[1] Liイオン電池: ケイ素系負極材料の創製



次世代負極には従来の黒鉛に代わり,これの約10倊もの理論容量を有するケイ素(Si:3600 mA h g-1)の利用が切望されています. しかしながら,Siは硬くて脆く,電子伝導性に乏しく,Li+を拡散させにくいといった活物質として の大きな問題を抱える物質でもあります. さらには,SiがLi+を吸蔵*放出する際の大きな体積変化により生じる応力のため 微粉化を引き起こしやすい性質を持ちます。これにより活物質の一部が集電体から孤立し, 充放電を繰り返すたびに容量が急激に減少しそのサイクル寿命は非常に乏しいものになってしまいます. 一般的にその特性を改善するためには化合物化が行われますが,Siにこの処理を施すと その容量は著しく搊なわれてしまいます. そこで当研究室では主に3つのアプローチにより高容量かつ長寿命なSi系負極材料の創製を行っています. また,最近ではSiへのリン(P)のドーピングによる性能改善にも取り組んでおります. これらのなかでも特に 2) 機械的・冶金的合金化,3) 無電解析出を駆使したSi負極の性能改善の取り組みについて 以下にご紹介します.








コンポジット化の手法として,メカニカルアロイング(MA)法により 種々の遷移金属シリサイド(ケイ化物)と 単体のSiとが活物質粒子内で均質に混ざり合ったコンポジットについて検討を行っています. その中で希土類金属シリサイドであるLaSi2を用いたコンポジット電極において 特に良い性能が発揮されることを見出しています. これはLaSi2が柔らかくて変形しやすく電子伝導性に優れるだけでなく, 熱力学的に非常に安定な物質であり充放電中でも分解しない極めて安定なマトリックスとして機能するためです. 最近では金属シリサイド単独電極の応用も積極的に行っています. これらの独自の電極の性能が改善されたメカニズムを詳しく調べるため, 顕微ラマン分光測定,走査型電子顕微鏡による電極断面観察,軟X線発光分析,固体核磁気共鳴 などの高度な分析を行っています(これらの分析の一部は外部の研究機関にて実施). 一方,種々の遷移金属シリサイドのLi吸蔵*放出量および熱力学的安定性について第一原理計算を用いて それらの電子状態を明らかにし,電極性能との相関を調査しています.

関連論文
1) 特許第6116068号(平29.3.31).
2) 特許第6302203号(平30.3.2).
3) IOP Conf. Series: Mater. Sci. Eng., 1 (2009) 012030-1-5.
4) Int. J. Electrochem. Sci., 6 (2011) 2246-2254.
5) J. Power Sources, 268 (2014) 848-852.
6) J. Phys. Chem. C, 120 (2016) 16333-16339.
7) Chem. Lett., 45 (2016) 1198-1200.
8) ChemElectroChem, 6 (2019) 581-589.
9) Electrochemistry, 88 (2020) 330-332.
10) ACS Appl. Energy Mater., 3 (2020) 7438-7444.
11) ACS Omega, 6 (2021) 8862-8869.
12) ACS Appl. Nano Mater., 4 (2021) 8473–8481.
13) ACS Omega, 7 (2022) 1223-1231.
14) J. Electrochem. Soc., 169 (2022) 010537.
15) ACS Omega, 7 (2022) 15846-15853.
16) Materials Advances, 3 (2022) 6231-6236.
17) Electrochemistry, 92 (2024) 1-7.




無電解析出(ELD)法により金属・合金層を Si粒子上に部分的に被覆させた活物質を検討しています. これまでに被覆層をRu,Cu,NiおよびNi-Pとしたコンポジット活物質を調製し, それらを原料粉として作製した電極が高容量とサイクル安定性を兼ね備えた負極となることを示してきました. これは,被覆層が導電性に優れることで活物質の集電性が部分的に改善され, また,金属・合金を含むことで活物質の機械的性質が向上し電極崩壊を起こしにくくしたためです. Ni-P被覆Siコンポジット活物質において,われわれは被覆条件の1つである無電解めっき浴のpHを 酸性から中性へ変化させました.その結果,酸性浴で見られたNi-P層の偏析は見られず, Si粒子上の広範囲にNi-P層を斑点状に析出することを見出しました. これを用いて作製した電極は1000回もの長い充放電サイクルを繰り返した後においても 従来の黒鉛負極の理論容量(372 mA h g-1)を大きく凌ぐ780 mA h g-1の放電容量を 得ることに成功しました.

関連論文
1) 特許第5755246号(平27.6.5)
2) 特許第6302203号(平30.3.2)
3) Electrochemistry, 78 (5) (2010) 329-331.
4) J. Power Sources, 196 (2011) 2143-2148.
5) J. Power Sources, 196 (2011) 10244-10248.
6) Electrochemistry, 80 (10) (2012) 737-739.
7) Chem. Lett., 47 (10) (2018) 1416-1419.
8) J. Electrochem. Soc., 167 (10) (2020) 040512.


[2] 電極*電解質界面の最適化

Si系負極の潜在的な高容量を上手く発揮させるためには負極*電解質界面のスムーズなLi+移動が 極めて重要になります.一方,イオン液体は難燃性を特徴とするだけでなく, その分子構造に種々の官能基を導入することで従来の有機溶媒に比べ多彩な機能を持つ電解液となる可能性を有しています. 当研究室ではLi+の界面移動を促すように独自に設計・合成したイオン液体電解液を Si系負極に適用し,その電極性能を最大限に発揮させる機能性界面の構築を行っています. その一例として,側鎖にエーテル基を有するピペリジニウムカチオン・ホスホニウムカチオンからなる イオン液体電解液は側鎖がアルキル基のものと比べて高い初回放電容量をもたらすことを明らかにしています. これは,負極*電解液界面のカチオン層においてLi+に配位するアニオンの脱溶媒和が エーテル基の局所的な負電荷により促進され,Si電極へのLi+挿入がスムーズに行われるためです. また,イオン液体電解液をSi負極に適用することにより,従来の一般的な有機電解液と比較して 優れたサイクル安定性が得られることを見出しています. このように得られた知見をイオン液体の設計にフィードバックし,さらに機能性を高めたイオン液体の合成と その適用よる負極の高性能化を行っています.



関連論文
1) Chem. Lett., 41 (2012) 521-522.
2) J. Power Sources, 235 (2013) 29-35.
3) J. Electrochem. Soc., 161 (2014) A1765-A1771.
4) J. Phys. Chem. C, 119 (2015) 2975-2982.
5) J. Power Sources, 338 (2017) 103-107.
6) J. Electrochem. Soc., 166 (2019) A268-A276.
7) J. Electrochem. Soc., 167 (2020) 070516.
8) ACS Appl. Energy Mater., 3 (2020) 8619-8626.
9) Electrochemistry, 88 (2020) 548-554.
10) ACS Omega, 5 (2020) 22631-22636.
11) ACS Appl. Mater. Interfaces, 13 (2021) 3816-3824.
12) Chem. Lett., 50 (2021) 1041-1044.


[3]ガスデポジション法による電極作製と反応機構解析

上記の電極評価は全て当研究室の基盤技術であるガスデポジション法(別吊:エアロゾルデポジション法)により 作製した電極を使用しています.この手法はキャリアガスを用いて活物質粉末をエアロゾル化し, 導管を通してこれをノズルから噴射し音速程度の高速で基板に衝突させることで, 気化過程を経ずに膜化することが可能です. 従来法で得らえる塗布電極とは異なりこの手法では導電助剤や結着剤が上要であるため, 粉体の凝集体で構成される活物質そのものの電気化学的特性を直接的に評価できる点に特徴があります. 当研究室の坂口教授はこの手法をリチウム二次電池電極の作製に初めて適用しました.



関連論文
1) 特許4626966号(平22.11.29).
2) Electrochem. Solid-State Lett., 10 (2007) J146-J149.
3) Thin Solid Films, 520 (2012) 7006-7010.
4) Earozoru Kenkyu, 31 (2016) 247-253.



[4]Na,Kイオン電池: 合金系負極材料の創製

Liイオン電池が大型化するにつれ, Liの資源問題(偏在性)も深刻になってきています. 一方,NaやKの資源は低コストであるうえに,海水中にほぼ無尽蔵に存在します. したがって,NaやKを蓄電池に用いることができれば,資源とコストの面で非常に有利です. ただし,Na+やK+のイオンサイズ(体積)はLi+の3倊以上も大きいため, 従来のLiイオン電池と同じ負極材料では,充放電反応がほとんど進行しない場合があります. 最近では,ハードカーボンや黒鉛などの炭素系材料が300-400 mA h g-1程度、容量を示すことが報告されています. しかしながら,この容量はLiイオン電池の黒鉛負極の理論容量(372 mA h g-1)と同じ程度であり, 今後は,より多くのNa+やK+を吸蔵できる金属・合金系負極材料の開発が求められています.
リン(P),スズ(Sn)およびアンチモン(Sb)などのNa,K貯蔵性元素はそれぞれ 2596,847および660 mA h g-1もの高い理論容量を有しておりますが, イオンを吸蔵すると元の5倊程度にまで体積が膨張してしまうことで, 電極の構造が破壊されてしまう問題を抱えています. そこで当グループでは,これまでのLiイオン電池研究で培ってきた知見を駆使し, これらの元素を合金化・化合物化することで, 問題の解決に取り組んでおります. 最近,リン化スズ(Sn4P3)が 多くのNa+やK+を可逆的に吸蔵し,かつ,長期耐久性に優れることを発見し, 世界中から大きな注目を集めております. また,電気化学反応と微細構造の観点から解析を行い, Sn4P3が高容量と長寿命を両立できたメカニズムを解明してきております. そのほかにも,高容量負極の探索を進めており, スズ化合物(SnO,LaSn3等),酸化ケイ素(SiO),リン化物(InP等),アンチモン合金(InSb等)などの 種々の新規材料の創製に成功しています. これらの新規負極を用いたNaイオン電池,Kイオン電池が定置用蓄電池などに実用化されることが期待されます.



関連論文
1) 特許第6321520号(平30.4.2).
2) 特許第6358871号(平30.6.29).
3) 特許第6598707号(令元.10.11).
4) J. Power Sources, 248 (2014) 378-382.
5) Electrochemistry, 83 (2015) 810-812.
6) J. Alloys Compd., 640 (2015) 440-443.
7) Electrochim. Acta., 246 (2017) 280-284.
8) ACS Energy Lett., 2 (2017) 1139-1143.
9) ACS Appl. Energy Mater., 1 (2018) 306-311.
10) Cryst. Growth Des., 21 (2021) 218-226.
11) Mater. Chem. Phys., 272 (2021) 125023.
12) Energy & Fuels, 35 (2021) 18833-18838.
13) Ceram. Int., 48 (2022) 35593-35598.
14) Electrochemistry, 91 (2023) 017001-1-5.
15) ACS Appl. Energy Mater., 6 (2023) 11583-11591.
16) ACS Appl. Eng. Mater., (2024) in press.


[5]他元素をドープしたルチル型TiO2の研究

ルチル型酸化チタン(TiO2)は,資源的に豊富かつ安価で人体・環境に優しい材料であり, 化粧品や日焼け止め・石鹸にも使用されている身近な材料です. Liイオン電池の負極としてのルチル型TiO2は,c軸方向にLi+が高速移動できる空間(拡散経路)を持ちますが, ab面内方向には拡散しにくい問題を抱えています. また,電子伝導性が低い物質であるため,このまま電池の負極に用いても, 充放電反応が遅いことで乏しい性能しか得られない材料でした. 当グループはこのようなルチル型TiO2に着目し,材料化学的な工夫を凝らすことで その潜在的な性能を発揮させる独創的な取り組みを行っています. (地方大学における教育も同じであり,学生の長所と苦手なものを的確に見極め, 長所を伸ばす工夫や指導をすることで,学生は成長し,素晴らしい能力を発揮できるようになると思います.)
一例として,TiO2結晶性を高めることや 他元素(Nb等)をドーピングすることで, その潜在的なLi+拡散能が充分に活かされ, 現行の負極を遥かに上回る高速充放電性能を達成しています. これは,結晶性を高めることでTiO2粒子の内部にまでLi+が吸蔵されやすくなり, Nbをドープすることで電子伝導性が向上したためです. また,イオンサイズが大きいNbの固溶により,拡散経路のサイズが広がったことも影響しています. 一方で,Nbをドープしたルチル型TiO2は,Naイオン電池負極としても良好な性能を示すことが明らかにしました. ルチル型TiO2がNa+を吸蔵*放出することを発見したのは,当グループが世界初となります. さらに,Nb以外の種々の他元素についても検討を行った結果, Taをドープした場合においてNa+の移動に適した拡散経路が形成され, 一層の高性能化が図れることも最近見出してきております.






関連論文
1) 特許第6364323号(平30.7.6).
2) ACS Appl. Mater. Interfaces, 7 (2015) 6567-6573.
3) ACS Sustainable Chem. Eng., 4 (2016) 6695-6702.
4) ACS Appl. Energy Mater., 2 (2019) 636-643.
5) ACS Appl. Energy Mater., 2 (2019) 3056-3060.
6) ACS Appl. Nano Mater., 2 (2019) 5360-5364.
7) ACS Sustainable Chem. Eng., 8 (2020) 9165-9173.
8) ACS Omega, 5 (2020) 15495-15501.
9) ACS Materials Lett., 3 (2021) 372-378.
10) Electrochemistry, 90 (2022) 037002-1-9.
11) J. Phys. Chem. C,126 (2022) 10320-10326.
12) ACS Appl. Energy Mater.,6 (2023) 4089-4102.
13) ACS Appl. Eng. Mater.,1 (2023) 994-1000.
14) ACS Appl. Electron. Mater.,5 (2023) 6292-6304.
15) Electrochem. Commun.,155 (2023) 107579-1-6.
16) Electrochemistry,91 (2023) 067003-1-6.
17) ACS Appl. Energy Mater.,6 (2023) 4089-4102.
18) Electrochemistry,91 (2023) 097004-1-6.



[6]光で充電できる電気化学デバイスの開発

低炭素社会を実現するには,CO2を排出しないクリーンエネルギーの利用が必須であり, 無尽蔵に降り注ぐ太陽光エネルギーを有効利用することが理想的です. ただし,天候や時間帯により発電量が激しく変動するため,発生した電力を一旦蓄えておく必要が生じます. 光電気化学キャパシタは,光で発電した電力をそのまま貯蔵することができる画期的なデバイスです. もしこれが実現すれば,電子ペーパー等の携帯用電子機器を電源につなぐことなく, 屋外でも自由に使用できるようになるため,利便性に加え, 資源・エネルギー・環境問題を解決するうえで極めて意義深いものとなります.
これまでに当グループでは,TiO2とMnO2からなる複合電極に対して光を照射すると, TiO2の光電変換で生じた電子がMnO2上でのNa+吸着を駆動し,光充放電反応が起こることを発見しました. 単一の電極において,酸化物(MnO2)のレドックスによる光充放電反応が発現した事例は,これが世界初です. ただし,現状のNa+吸着量は実用レベルの1割に満たないため,その改善が課題です. そこで,TiO2の光起電力(Na+吸着の駆動力)を改善するアプローチとして, 自然界の光合成システムから着想を得て,電解液に光合成関連物質を添加する試みを行いました. その結果,光合成において電子やエネルギーを運ぶ物質(NADPHやATP)を添加すると, TiO2の光起電力が劇的に改善され,複合電極の充放電特性が向上することを最近見出しました. これにより,化学とバイオの融合による全く新しい光充電機構を創出することに成功しております.





関連論文
1) Mater. Lett., 186 (2017) 338-340.
2) Mater. Today Energy, 9 (2018) 229-234.
3) ACS Appl. Electron. Mater., 1 (2019) 823-827.
4) ACS Sustainable Chem. Eng., 8 (2020) 9165-9173.
5) ACS Appl. Bio Mater., 4 (2021) 5975-5980.
6) J. Energy Storage, 44 (2021) 103497-1-8.